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先代の悩み「後継者に任せるのが怖い」葛藤と向き合うには

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introduction

2025年1月末に開催した先代・洋一さんとの事業承継対談セミナーでは、親子関係・後継者の選定と育成・承継の進め方・承継後の関わり方という5つのステップについて、皆さんからの質問も交えながら、それぞれの場面で感じたことをお話しました。印象に残った気づきやエピソードを数回に分けてご紹介したいと思います。最終回となる今回は先代の悩みでもある「後継者に任せるのが怖い!」を当社ではどのように解消したのかについてお届けします。

先代の接し方は「北風と太陽」

まず、先代の後継者に対する接し方については、「放っておく」のが最善策かもしれません。「放置する」と言ってもいいかもしれませんが、基本的に先代は、会社の経営に関わる数字だけを見ておいて、よほど大きな間違いや問題がない限り、基本的には「見るだけ」というスタンスでいることがよいと思います。それでもやはり「放っておくのは怖い」という話になりますよね。これについて、実際に事業承継を行った私と先代の経験から言えることは、「本当に放っておかれると、後継者は怖くなって相談してくるものだ」ということです。特に、重大な決断の時には必ずと言っていいほど相談してくるはずです。

私の場合も、先代は基本的には何も言ってこなかったので、本当に放置でした。放置されると「これ、どうしようかな」と迷った時に、電話をかけたり家に行ったりして、先代の意見を聞いておきたいとなるわけです。まさに「北風と太陽」のように、放っておかれた方が大事なしなくなってしまうと思います。この点については先代も実感していたようで、「放っておいたら怖くなって相談に来ますから、安心してください」と、セミナーに参加してくださった経営者の皆さんにお伝えしていました(笑)

また、先代である父は数字を見ておくこと以外にも、会社に来た際に「会社の活気」を見ていたそうです。従業員の雰囲気やお客さまの様子などから、変化を感じ取っていたとのことでした。このように、先代は数字と社内の活気という非常にマクロな視点で会社を見守り、その他の細かい点については「困ったときは相談してくると分かっているから任せている」というスタンスをとっていたのです。

後継者は「経営者」だと思いすぎない

次に、後継者はどのような心持ちでいればよいか、私の経験からお話しします。結論からお伝えすると「自分のことを経営者だと思いすぎない」ということです。真面目な後継者ほど「何でも自分でできなければいけない」「後継者もできて当然」と気負いがちですが、そのプレッシャーが「そんなこと言われなくても分かっている!」という先代との衝突や従業員との壁を生んでしまいます。しかし、外部や従業員の視点から見れば、一人で完璧を装う人よりも、分からないことを素直に認め、先代や従業員の力を借りられる人の方が、よほど信頼できます。足りない部分を認め、周りの知恵を活かせる人の方が安心感があるのです。

そもそも、創業者でさえ最初から完璧だったわけではありません。先代である父も「生活のために必死で、分からない壁にぶつかりながらやってきただけだ」と語っていました。出来上がった組織を引き継ぐからこそプレッシャーを感じるものですが、創業者も試行錯誤の連続だったのです。そう思うと、変に肩肘を張る必要はないと気づくはずです。私も以前は「分からない」と言いたくない、言ってはいけないという気持ちがありましたが、考え方を変えてからは素直に相談できるようになりました。その方が頼られた先代も喜び、親子関係も、従業員との関係も円滑になります。肩の力を抜き「頼る勇気」を持つことが、良い経営への第一歩です。

もうひとつ、セミナー内で「仕事とプライベートで、親子の関わり方を変えていますか?」というご質問をいただきました。先代は「プライベートとの区別はない」と話していましたが、後継者の立場からすれば、四六時中仕事の話をされるのは正直しんどいものです。私も諸事情で2週間くらい実家にいた期間がありましたが、まるで寝る時以外、常に上司と一緒にいるような状態で、心が休まりませんでした。しかも聞かれるのは悩ましい問題ばかり。これでは後継者は疲弊してしまい、かえって大切な相談もしづらくなり、親子関係に亀裂が入りかねません。円満な関係を保つためには、親子であってもプライベートな時間は意識的に距離を置き、お互いの時間を持つことが不可欠ではないかと思います。

これまで計4回にわたり、事業承継についてお話してきました。この記事を通じて、事業承継に悩む多くの方々にとって、少しでも承継に役立つヒントが見つかれば幸いです。