最低賃金1,500円時代を見据えた中小企業の人件費戦略 ― 今、やっておくべきシミュレーションとは ―
国内では、いずれ全国平均の最低賃金が「時給1,500円」水準に近づく可能性が以前より高まっています。こうした状況を踏まえ、中小企業においては「もし最低賃金が1,500円になったとき、自社の人件費・賃金構造にどのような影響が出るか」を今から整理しておくことが重要です。今回は、そのような未来に備えた今やっておくべきシミュレーションについてお伝えしたいと思います。
試算データから見る影響
現状の最低賃金1,046円(徳島県)が、おおよそ1,500円前後まで上がると、最低賃金は約50%アップですが、当然ながら最低賃金にかかる人だけ上げれば良いということにはなりませんよね。給与が逆転するわけにもいかないし、最低賃金を超えていた人たちのモチベーション維持も考えると、ある程度は「全体的に給与テーブルが上がる」ことが必要なはずです。今回は、「最低賃金上昇が給与全体にどの程度の影響を与えるか」について、分析されたレポートをご紹介したいと思います。
Date①:(一社)労働運動総合研究所「最低賃金が全国一律1500円になったら」(2023/2/7)
一般社団法人労働運動総合研究所のレポート「最低賃金が全国一律1500円になったら」によると、時給1,500円未満の労働者をすべて時給1,500円に引き上げるために必要な原資(=企業の賃金支払総額の増加見込み)は16.1兆円となっています。この増額が全労働者(2021年時点)に波及した場合、1人あたり平均賃金は月額23,632円上昇し、2021年の現金給与総額が月額319,461円だったところから、約7.4%の賃上げ相当という試算が出ています。
Date②:IMF(国際通貨基金)Cross-Country Report on Minimum Wages(2016/6/15)
一方、国際的な議論では、例えば IMFが示す“最賃引き上げが平均賃金にも波及する可能性”について、「最低賃金を1%引き上げた場合、平均賃金が約0.5%上がる」という考察もあります。これを仮に「最低賃金が1,000円から1,500円へ50%アップした」と考えると、平均賃金も約「50%×0.5=25%」程度上がる可能性があるというイメージになります(もちろんモデル上の仮定です)。
よって、最低賃金1,500円に向けた時、人件費全体として 7.4%~25%程度の上昇幅を想定しておくべきだ、という目安を持つことができます。
最低賃金1,500円時代を見据えてやっておくべきシミュレーション
以下に、最低賃金1,500円時代を見据えた中小企業の人件費シミュレーションステップをまとめました。是非、下記のステップをご参考に貴社の人件費を算出し、今後の経営にご活用いただければと思います。
STEP1:現状把握
現在の従業員の時給・給与体系を詳細に確認する。
最低賃金を下回っている従業員だけでなく、それ以上の賃金を受けている従業員も含めて把握することが重要です。
STEP2:個別にシミュレーション
従業員一人ひとりの時給を計算し、最低賃金1,500円になった場合の昇給額を試算する。
これにより、個別の賃金上昇額とそれに伴う総人件費の増加額を具体的に把握できます。
[等級ごとの標準給与幅を定めた「等級表」を作成・活用する]
従業員数が多い場合は、等級表を基に、各等級の給与水準が最低賃金1,500円時代にどの程度引き上げるべきかを検討することで全体の人件費上昇率を把握できます。
STEP3:全体的な調整
最低賃金上昇に伴い、最低賃金を上回る従業員の給与水準も検討する。
納得感の向上や離職防止のため、周辺企業の動向も考慮し、全体的な賃上げが必要となる可能性があります。
STEP4:総人件費の上昇幅の算出
自社における総人件費の具体的な上昇幅を算出する。
個別シミュレーションまたは等級表を用いた検討結果から前述の試算データ (7.4%~25%程度) を参考に、自社の状況に合わせた具体的な数値目標を設定します。
STEP5:経営戦略への反映
経営全体の見直しと戦略策定を行う。
算出した人件費上昇幅を基に、価格戦略、生産性向上策、採用戦略など、人件費の増加を吸収するための具体的な対策を講じることが、持続的な企業経営のために不可欠です。