事業承継スタートのきっかけは? どちらから切り出すべきか?

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introduction
2025年1月末に開催した先代・洋一さんとの事業承継対談セミナーでは、親子関係・後継者の選定と育成・承継の進め方・承継後の関わり方という5つのステップについて、皆さんからの質問も交えながら、それぞれの場面で感じたことをお話しました。印象に残った気づきやエピソードを数回に分けてご紹介したいと思います。今月のコラムでは「事業承継スタートのきっかけ」や「後継者の育成」についてお届けします。
事業承継のタイミングと決断の背景
事業承継が始まったタイミング。つまり、私の場合であれば実家の会社に戻る時期がいつ決まったのか、どういうきっかけでどちらから言い出したのかという点において、結構皆さんも悩むポイントだと思います。私の場合は東京で働いていて、よく両親が遊びに来ていたこともあり、一緒に食事などをしていました。その中で「今の仕事も楽しいけれど、ちょっとそろそろ疲れてきたな」とポロッと両親に言ったんですよね。以前の職場は労働時間が長かったこともあり、そのような言葉が出たのだと思います。その時、父から「それなら帰ってこい。来年の4月から帰ってこい」と時期まで指定されました(笑)その後、毎週東京と徳島を往復するうちに、実家の会社に関わることが決まりました。この経験から思ったのは、事業承継を進める上で、「いつから帰ってきてほしい」といった最終的な決断は、先代から促されない限り、なかなか進展しにくいということです。
後継者の立場からすると、先代に対して「現在の会社を辞めて実家の会社に戻りたい」と申し出るのは、どこか逃避のように感じられ、また「実家の会社に戻り、給与を得る」ことは、親に依存するような印象を与えかねないからです。そういった点から、よほど大きなきっかけがない限り、後継者自ら切り出すのは難しいと思います。さらに、そうこうするうちに時間だけが経過し、気付けば相応の年齢になっていることも少なくありません。そうなると、今更言い出しにくいという状況にもなり得ます。
“何歳の時に継がせるべきか”というのは色々ありますが、父である先代の洋一さんは、「30歳くらいまでには戻したかった」と言っていましたね。それについては様々な考えがあるとして、やはり親の方から「お前もそろそろ来年ぐらいに戻ってこいよ」というように背中を押さないと、なかなか実現しないと思います。是非参考にしていただけたらと思います。
現場3年、カバン持ち3年が理想!?
次に、後継者の育成というテーマについてです。「最初から自社で育成すべきか、あるいは外部で経験を積ませるべきか」「どのように後継者を育成すればよいか」といったご質問がありました。この点について、父は「まず後継者が戻ってきたら3年間は現場を経験させるべき」と語りました。また社長である先代に同行させ、いわゆる「鞄持ち」として常にそばで学ぶ機会を設けるべきとも話されていました。それによって引き継がせたいのは、意思決定の際の判断基準、経営の根本的な考え方、そして人脈です。私の場合は、実家に戻って半年で代表取締役に就任しました。不足しているところは色々あり、最終的には後から補っていきましたし、最初から代表として経験を積むことの利点もあったとは考えられます。しかし、先代がまだ現役で活躍しているうちに、経営の考え方や判断基準、人脈などを集中的に引き継ぐ期間を設けるべきだった、というのが父の意見でした。
私もその意見には一理あると感じています。一方で、私自身が感じたのは、むしろ税理士としての専門的な技術、例えば顧客との接し方や、税理士としての実務上の思考法、経営戦略以前の顧客の問題解決アプローチなどを、父のそばで集中的に学ぶ機会があればよかったという点です。顧客訪問に同行することもあり、学ぶ機会が皆無だったわけではありませんが、キャリアの初期にもっと集中的にそうした「職人としての技」を学ぶ期間があっても良かったと感じています。なぜなら、経営者としての考え方は、後継者が代表に就任した後でも先代が健在であれば相談を通じて長期間にわたり学ぶことが可能です。しかし、専門職としての技術や勘所はその道のプロとして第一線で活躍している現役の間にしか、十分に引き継ぐことができないからです。したがって、先代が現場を離れ、「もう実務は難しい」という状況になってからでは、その技術の継承は困難です。自ら現場を経験することも重要ですが、それと並行して、専門家としての先代に密着して学ぶ期間を設けることも有益だったのではないかと考えています。