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コラム2021年8月 後継者・幹部に必要な思考 「批判的思考」

お世話になっております。
今回は、「論点思考」「肯定的思考(ポジティブシンキング)」に続いて、「批判的思考(クリティカルシンキング)」についてご紹介いたします。

批判的思考(クリティカルシンキング)とは、「自分のアタマで考える」ということです。
言い換えると、「世間の言うこと/相手の言うことを鵜呑みにしない」ということです。

1:なぜ後継者に「批判的思考(クリティカルシンキング)」が重要か?

「自分のアタマで考える」と書くと、当たり前のことのように感じます。
実際、創業社長やベテラン経営者にとっては当たり前です。というよりは、「自分のアタマで考える」ことができているからこそ、ここまで事業を成功させ、生き残ってこられたのだと思います。

ですが、後継者は、経営者としての経験は浅い状態で、成熟した組織を引き継ぐことになります。
真面目な後継者ほど、書籍や色んな方からのアドバイスによって勉強し、「知識」を身に着けようとします。
それ自体は素晴らしいことですが、「批判的思考(クリティカルシンキング)」を持ち、「疑ってかかる」習慣を身に着けていないと、「知識に踊らされて」失敗してしまう可能性があります。後継者は先代が成長させた事業を受け継ぐので、一つの失敗が会社の危機に結び付きやすいのです。
それゆえ、後継者は(致命的な失敗をする前に)意識的に「批判的思考(クリティカルシンキング)」を身に着けておくことが重要です。

2:「世間で言われていること」が正しいとは限らない!

①ある雑誌記事に感じた違和感

先日、ある業界紙を読んでいたところ、RPA(ロボティック プロセス オートメーションの略)の特集がありました。
RPAとは、要は「単純作業をロボットにやらせる」ということです。
ロボットの活用は製造業で先に進みましたが、近年会計事務所のような事務作業メインの業界でも注目が高まっています。

その記事には以下のように書かれていました。

これは本当でしょうか??

②批判的思考(クリティカルシンキング)でこの記事を見ると…
この記事を見た時に、個人的には無理があるのではないかと思いました。記者が、「RPAを導入すると効果がある!」という記事を書きたいという結論ありきで、都合の良いデータを持ってきたように思えます。

仮説ですが、おそらく真実はこうだと思います。

  • 先駆者的にRPAを導入するような事務所は、ある程度大手事務所であり、「企画部」的な部署・人物が存在する
  • そのような事務所は、RPA以外にも業務効率化や営業力アップのための取り組みを積極的に行っている
  • RPAというよりは、そのような取り組みの積み重ねによって、営業に割く時間も多くとれるし、受注率も高くなっている⇒新規獲得件数が多い

③なぜこの記事に無理があるのか
本記事の趣旨からは少しそれますが、この記事がおかしいと思った点を記載します。
興味がなければ③は読み飛ばして下さい。

事務作業におけるRPAでは、例えば、
「申告に使う税務署からのお知らせ情報を、ダウンロードして顧客別のフォルダに保存する」
といったような、「繰り返し行う単純作業」をロボットに行わせることができます。

ですが、会計事務所の担当者の業務においては、このような「繰り返し単純作業」はあまり多くありません。総務部の業務などは繰り返し単純作業も一定あるかもしれませんが、新規営業を担うのはお客様対応を行っている担当者であることが多いですので、この記事のように「営業の効率が倍になるほど」繰り返し単純作業があるとは思えません。
したがって、「RPA(ロボット)を導入したら営業力が向上する!」という記事は、誤解を生みやすい記事なのではないかと思います。

④なぜこのような記事が生まれるのか

なぜこのような誤解を生みやすい情報が発信されるのでしょうか?理由は2つあると思います。

(1)結論ありきで発信するから
(2)「言葉のイメージ」で良し悪しを思い込んでしまうから

(1)結論ありきで発信するから
全ての人には、その人が所属する組織やその人の仕事内容・利害関係といった「立場・動機」があり、その人が発する情報は、その人の「立場・動機」によって強く影響を受けているということを常に意識する必要があると思います。
上記の業界紙の例でいうと、記者は根本的に「面白い記事を書かなければならない」という動機があります。「RPAを導入すると絶大な効果がある!」という記事は、時流にも乗っていてある程度面白い記事と言えますし、さらに「RPAは重要だ!」というムードを盛り上げることで、今後もRPAの記事を書いたりRPA関連のコンサル業務を展開して儲けたい、という会社としての思惑(利害関係)もあると思われます。
最近の新型コロナウイルス問題に関しても、危機感を煽った方が儲かる立場の人と、終息してもらわないと困る立場の人とでは意見が全く異なることがよく分かったと思います。

(2)「言葉のイメージ」で良し悪しを思い込んでしまうから
これも非常に多く見受けられます。例えば以下のようなイメージです。情報を発する側も、このような思い込みに基づいて情報を発しますし、受け取る側も何となく正しいことのように思ってしまいがちです。

【例1】「無駄な業務を排除して効率化を進めるべき」

いかにも正しいことのように思えます。後継者や幹部が、日々新聞や書籍でこのような情報に触れていると、これが正しいことと思ってしまいます。
ですが、一見無駄に見える仕事や会話から、新しいアイディアが生まれ進化につながるというのも事実です。全く意味のない業務は排除すべきかと思いますが、もし「効率化を進めるべき!」という情報だけにとらわれてしまい、全く遊びのない職場を作ってしまうと、目の前の生産性は上がるものの、時代の変化についていけずに業績は悪化してしまうのではないかと思います。

【例2】「1人当たり売上高は高くなければならない」

勉強熱心な後継者・幹部が気にしがちな指標です。余剰人員を抱えているのは良くない、という思い込みです。
ですが、余剰人員を持っておいた方が、何か特需が起きた際や新しいことを始める際に人員を投入でき、ビジネスを有利に進めることができます(昨年、弊社が給付金申請の無償代行を多数ご支援させて頂けたのも、新人を多く採用していたからでした)。
理想的なのは、「一定の余裕を持ちつつも、いつでも効率を上げられるように、効率の良い業務のやり方は研究しておく」ということだと思います。

【例3】「選択と集中によって、得意とする事業/利益率の高い商品・サービスに絞り込むべき」

教科書や書籍で経営を勉強すると、「常識中の常識」くらいに書いてある考え方です。
安易にこれを信じてしまい、現状の得意分野以外の事業を辞めてしまうと、残った事業が失敗した時には会社は倒産してしまいます。東芝は「選択と集中」によって半導体事業と原発事業に集中しましたが、両事業の失敗により経営危機に陥ってしまいました。
何でもかんでも手を広げるのは良いとは思いませんが、ある程度はリスク対策として「主力ではないが見込みのある事業/商品・サービス」も残しておくべきだと思います。

3:後継者と従業員との日々のやりとりにおいても批判的思考(クリティカルシンキング)は重要

例えば、後継者が何かを変えようとしたとき、従業員からは以下のような反応が想定されます。
「このやり方をすると効率が悪くなります」
「これをやるとこんなリスクがあります」

もちろん、この意見は重要です。経営者、特に現場経験の浅い後継者にとっては、自分より従業員の方が 現場のことに詳しいことも多いので、しっかりと現場の意見には耳を傾ける必要があります。

ですが、「そうだよね」といって引っ込めてしまっては、会社は進化していきません。
上記の意見は、(ここまで述べてきた通り)それぞれの従業員の「立場・動機」にも影響されますし、「効率化は正しい」「リスクは避けなければならない」という思い込みもあったりするからです。

「このやり方をすると効率が悪くなります」

↓↓↓

・本当に効率は悪くなるの?効率悪化を防ぐ工夫はないの?
・効率って悪くなるのはいけないことなの?
・その代わりに得られるメリットがあるんじゃないの?そのメリットと効率悪化のデメリットはどちらが大きいの?

「これをやるとこんなリスクがあります」

↓↓↓

・そのリスクは本当に実現するの?ほとんど起きないことではないの?
・リスクが実現したとして、大変なことになるの?実現してしまっても大きな問題にはならないんじゃないの?
・リスクを避ける手段があるんじゃないの?

このように、その意見を鵜呑みにせず、自分のアタマで考え問い直す(=批判的思考(クリティカルシンキング))ことが重要だと思います。

4.お勧め書籍

・ちきりん(2011) 『自分のアタマで考えよう 知識に騙されない思考の技術』 ダイヤモンド社
「ちきりんの日記」という有名ブログを運営する著者「ちきりん」さんの書いた本です。
ブログのように会話調で書かれており、とても読みやすいです。高校生でも読めるので学生のお子様にもお勧めです!私も転職活動の際に先輩から勧められて読みました。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました!!
これで、「後継者・幹部に必要な思考」編は終了です。
紙面に書ききれないこともありましたので、またセミナーなどでお話したいと思います!